11.なぜタイ人を人前で叱ってはいけないのか?

「カルチャーマップ」における指標のうち、次にご紹介するのは「評価における直接的なネガティブフィードバックと間接的なネガティブフィードバック」という指標です。「直接的なネガティブヂードバック」とは、部下や同僚に対してネガティブな評価をフィードバックする時に、単刀直入にそのまま伝え、ポジティブなメッセージで和らげることをしない、また批判はグループの前で個人に対して行われる、というコニュニケーションが取られるということです。「間接的なネガティブフィードバック」とは、ネガティブなメッセージをポジティブなメッセージで包み込みながらやんわりと伝えられ、また批判は1対1でのみ行われる、というコミュニケーションが取られる、というものです。

この指標において、日本とタイは世界でも最も「間接的なネガティブフィードバック」側の端に位置しており、反対に「直接的なネガティブフィードバック」を行う国としては、オランダ、ロシア、イスラエル、ドイツなどとなっています。エリン・メイヤー著「異文化理解力」の記述によれば、オランダでは人前で「全くプロフェッショナルではない」といった直接的な言葉でのネガティブなフィードバックが行われることが当たり前だということですが、タイでは決してそのようなことを行なってはいけません。

それは、タイ人が中国人同様に「面子」を最も重んじる文化を持っているからです。人前で叱られたりすれば「人前で面子を潰された」という怒りの感情自体で頭に血が上ってしまい、叱られている内容などは全く耳に入ってはこなくなってしまいます。ですので、日本で行なっているよりさらに気をつけて、叱る時には他の人にはわからないように行わなければなりません。

また叱る内容についても、褒めるところとセットで行い、まずは褒めるべきところを褒めてから、叱るべきところを叱るという順番が必要です。そのことは、タイ人が、日本人と同様に世界でも最も「ハイコンテクスト」なコミュニケーション文化を持っていることにも関係していると思います。つまり、「ほのめかし➡️察し」というコミュニケーションカルチャーの中で、叱られたことを「ボスは自分を嫌っているのではないか」「自分はクビになるのではないか」などと言葉の裏にあるものを「深読み」してしまう可能性があるということです。ですので、まずは笑顔で褒めるところから始めて、自分はその人に対して悪感情を持っているわけではないということを示してから本題に入るべきなのです。

またタイ人は「怒り」の感情を表に出すのは徳の低い人間のすることだという価値観を持っています。そして徳が高く尊敬できる「ピー」の言うことはきくが、たとえ職制の上司であっても自分が「ピー」と認めない人の言うことは聞きません。ですので、怒りの感情を表に出すことはタイでのマネジメントを困難なものにすることにつながりますので、「まずは笑顔で」ということも大切な要素になります。

「可愛くば、五つ数えて三つほめ、二つ叱って良き人となせ」という二宮尊徳の名言があります。相手に対して5つ対象を見つけ出し、そのうち3つを褒めて2つを叱れ、ということです。ポイントは、その配分だと思います。最初に3つ褒められたからこそ、2つ叱られた部分を素直に聞くことができるのです。この領域は日本とタイはカルチャーとして同じポジションで日本人にとって感覚的に理解しやすい部分ではありますが、特に「面子重視」の部分への配慮は、日本人相手の場合以上に注意すべき点となります。

中小企業診断士

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