エリン・メイヤー教授のカルチャーマップには8つの指標がありますが、このなかで2つの指標では、日本とタイは正反対のポジションに位置しています。ひとつめが前述の「SCHEDULING(スケジューリングにおける時間感覚)」の指標で、もう一つが「DECIDING(決断)」の指標です。「決断」の指標は、ビジネスにおける意思決定が「合意志向」でなされるか、「トップダウン」でなされるかという指標です。この指標では、日本は世界で最も「合意志向」の決断がなされる文化を持っているとされています。それに対して中国は、最も「トップダウン」寄りに位置しており、中華系の人たちがビジネスの多くを支配しているタイも中国と同じ「トップダウン」の文化を持っています。つまり、タイと日本ではこの面において、正反対のカルチャーを持っているのです。


この「トップダウンか合意志向か」というカルチャーの違いが、日系企業における多くの問題の原因となっています。日本人から見たタイ人への大きな不満として「自分の頭で考えない」「指示待ち」といったものがありますが、一方タイ人から見ると、日本人の上司は「決めてくれない」「指示が曖昧で何をすれば良いかわからない」といった不満を持つことになります。日本人はタイ人に、自分たちのボトムアップカルチャーによる会社運営を行おうとして「目標を与えているのだから自分で考えて自分で動く」とことを期待しており、一方のタイ人は日本人の上司にトップダウンカルチャーで物事が進むことを期待し「上司なのだから決めるべきことを決めて、指示を出して欲しい」と思っているのです。ところが多くの場合には、残念ながらこのお互いの期待が叶えられることはありません。さらには、タイ人は「グレンチャイ(遠慮)」の文化を持っているため、その「期待外れ」を面と向かって口に出すことは滅多にないため、お互いに相手の不満点が明確化されることがなく、このギャップは埋まらず、すれ違いのままになってしまいます。
日系企業のマネジメントは、現地法人では社長といっても日本本社の子会社ですので、何事においても本社と相談して物事を進めることが普通です。しかしそのことは、タイ人の部下から見ると「決断する力がない」と取られてしまうことがあります。また日本企業には日本独特のビジネス慣行である「稟議書」の仕組みがあり、これを通さないと物品ひとつ購入することはできません。ですが、この稟議書の回覧に時間がかかることによってなかなか最終決定にならないことは、即断即決が当たり前の中華系タイ人のビジネスの進め方に慣れたタイ人にとっては、実行へのスピード感のなさに映ります。この部分はタイ人から見た日本人マネジメントへの大きな不満となりますので、マネジメントとしては、タイ人がそう言う不満を抱えがちであると言うことに留意すべきなのです。
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