10.タイはなぜ「微笑み国」になったのか?

タイ人とのコミュニケーションを取る際には、言葉だけではなく表情からも読み取る必要があると言うお話をしました。<9.タイ人の「根拠のない自信」はどこから来るのか?> しかし、その「表情」にもカルチャーによる差異があります。タイは「微笑みの国」と言われます。それはその通りなのですが、それは、他の民族が「ほほえみ」では表現しない場合でもタイ人が「ほほえみ」の表情を使うからです。つまり、タイ人の「ほほえみ」にはさまざまな意味が込められているということなのです。

たとえばタイ人は、知らない人には「とりあえず」微笑みを向けます。タイという国は大陸の国であり、周りを取り囲むクメール民族のカンボジアやビルマ、マレーシアは当時のタイより強大であり、大国に囲まれた弱小国としての位置にあり、他民族によるによる脅威にさらされていたという歴史があります。また、アユタヤ王朝の時代(日本の室町時代から江戸時代後期)から、外国人の力を活用してその脅威に対抗するという外交術を持っていました。そのため、知らない人、特に外国人には「とりあえず微んでおく」ことで敵意がないことを示すという「生きる術」を身につけたのだと考えられます。ですので、タイで知らない女性があなたに対して微笑みを向けていたとしても、残念ながら、それはあなたに好意を持っているということではありません。そしてこれは「知らない人にニコニコするのははしたないこと」という中国のカルチャーとは正反対です。ですので逆に、あなたが中華レストランの中国人店員に仏頂面で接客されていたとしても、それは中国ではスマイルは0円では売っていないということであり、その店の接客が特に悪いというわけではないのです。

またタイ人は、何かよくないことが起きた時に、それがシリアスな状況であればあるほど、タイ人は微笑みます。たとえば交通事故が起きたとしても、ぶつけた方が微笑みながら車から降りてくるということはよくあるのです。ですので、あなたの部下が微笑みを浮かべながら近づいてきたとしたら、それは何かとんでもなく悪い報告をしにきている可能性があります。これは「とりあえず難しい顔をしておく」というカルチャーを持つ日本人からすると、タイ人は「なぜこんな時にヘラヘラしているんだ?」ということになります。

アメリカ人の社会学者が妻であるタイ人の社会学者と書いた「タイ人と働く」という本によると、タイ人は13種類の微笑みを持っているそうです。

①「イム・ターン・ナムター」=「とっても幸せ、だから泣いている」といった類のほほえみ。

②「イム・タック・ターイ」=あまりよく知らない人への丁寧なほほえみ。

③「イム・チューンチョム」=「あなたはすばらしい」といった類のほほえみ

④「ファン・イム」=「冗談が面白くなくても笑わなければいけない」類の作り笑い

⑤「イム・ミー・レッサナイ」=心の中にある悪意を隠す微笑み

⑥「イム・ヨー」=からかい、または「だからそういったでしょ」といった類のほほえみ

⑦「イム・イエーイエー」=「事の善悪はわかっている。でも覆水盆に返らずだから、嘆いても仕方がないでしょ」といった類のほほえみ

⑧「イム・サオ」=悲しみを表すほほえみ

⑨「イム・ヘン」=「トライ」なほほえみ。「あなたに借金していることは分かっているが、返すお金がない」といった類の作り笑い。

⑩「イム・タック・ターン」=「あなたの意見には賛同できない」といった類のほほえみ。あるいは、「どうぞ提案してください。でもあなたの考えはよくない」といった類のほほえみ。

⑪「イム・チュア・チュアン」=「私の勝ちだ」といった類のほほえみで、敗者に向けてなされる。

⑫「イム・スー」=「勝ち目のない戦いに直面した時の」ほほえみ。

⑬「イム・マイオーク」=「笑おうとするけれど顔がこわばってしまう」ほほえみ

<引用:タイ人と働く- ヒエラルキー的社会と気配りの世界」ヘンリー・ホームズ&スチャーダー・タントンタウィー著 末廣昭訳 めこん社 >

さて、あなたはこのうちのどれくらいを見分けられるでしょうか?

②、④あたりはわかりやすいかと思います。タイ人マネジメントにおいて特に「くせもの」となるのは、⑤、⑦、⑩あたりですね。これらの微笑みの意味を正しく読み取れるようになれば、あなたのタイ人マネジメント能力は「名人級」と言えると思います。

中小企業診断士

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