タイ人マネジメント

タイには5000社を超える日系企業があり、7万人の日本人が在留しています。

日系企業の社長の大半は日本人ですから、タイには日本人の社長さんが5千人いるということになります。また社長ではなくても、多くの方がダイレクターやゼネラルマネージャーといったトップマネジメントのポジションについていらっしゃると思います。

タイにおいて外国人は肉体労働や事務作業、店員などの「労働」をすることはできません。これらの単純労働は、外国人の就業が禁止されている39業種に指定されており、外国人が行うことはできないのです。タイで働くための就労許可を得るためには、①日本人にしかできない特殊な技能を要する職務につく、②タイ人が使えないまたは使えるタイ人が非常に限られている技術を伝える(期限を設定し2人以上のタイ人に技術を移転しなければならない制限あり)、③企業を経営するマネジメントの立場につく、しかありません。つまり、寿司職人などの「日本人ならでは」の職でないかぎり、タイ人の労働を指導監督する目的でないと、外国人が労働許可証を取ることが難しいのです。したがって必然的に、タイで働くということは、タイ人のマネジメントを行うという立場に立つことになります。

一方タイの現地法人ではトップマネジメントの立場である駐在員の方々も、日本の本社において会社全体に責任を持つ立場を経験されてから赴任されている方は少数です。ただでさえ慣れないトップマネジメントの業務を外国人相手に行わなければならないということで、ご苦労をされている方が多いと思います。

タイの日系企業のうちの約3000社が製造業です。特に自動車産業とその周辺業界の企業が数多く進出していますが、近年その裾野が広がり、金型メーカー、プレスメーカー、熱処理、表面処理といった部品の加工を担う専門メーカーも多数進出しています。その多くが、日本の親会社の規模も数十人から数百人といった中小中堅企業です。タイが初めての海外進出先であるという場合も多く、会社として海外業務のノウハウの蓄積がないため、すべてを現地に送り込まれた人員が手探りで進めなければならないということが多くなります。そして、タイ人従業員のマネジメントに関する困りごとが起きて本社に相談した場合には、本社は日本の常識に基づいた指示を現地に出すことになりますが、タイにおいては日本と同じようにはいかず、それを本社にはわかってもらえずに、ひとり悩まれている方も数多くいらっしゃることと思います。

私もそのような、日系中小製造業の責任者としてタイに赴任した一人で、現地法人責任者を5年間務めました。5年間のタイ生活の中で、工業団地や取引銀行が主催する集まり、同郷出身者の集まりや大学同門などの集まりなどで、様々な会社の日本人赴任者の方々とご一緒させていただく機会が多くありました。そのような時に決まって出てくるのは、次のようなタイ人に関する愚痴でした。

「また部下が転職してしまった。やっと仕事を覚えて一人前になったところだったのに。タイ人ってなんであんなにすぐに会社を辞めてしまうの?」

「タイ人ってよく休むよね。彼らには仕事に対する責任感というものはないのだろうか?」

「タイ人は、次の仕事に備えた準備をちゃんとしないよね。何度口を酸っぱくして言っても全然直らない。彼らには計画性というものがないのか?」

「タイ人ってどうして時間を守らないのだろうね?約束の時間に遅れてきて謝りもしない。社会人としての基本ができていないよね」

「タイ人は、自分の頭で考えようとしないね。何でもかんでも細かく指示しないと何も進まない」

「何か指示すると、素直に『カップ(はい)』と答える。でも、いくらたってもやる気配がない。それで問いただすと、そこで初めてやったことがないとかやり方がわからないとか言い出す。できないのならの場で言えって話だよね」

このブログをたどり着いたあなたは、きっと同じようなご苦労をなさっている方なのではないかと思います。そしてあなたも、タイ人に対して同様な感想を持たれているのではないでしょうか?

かくいう私もタイ人に対して同じ感想を持っていました。しかし5年間の経験の中で、タイ人から見た日本人に対する感じ方についても、だんだんに解ってきました。

「うちのボスはこの会社に30年も務めているんだって!そんなに長く同じ会社に居続けるなんて、日本人には向上心というものはないのだろうか?」

「日本人は全然休みを取らないよね。彼らにも両親もいて家族もいて、家族が病気になることもあれば、両親の誕生日もあるはず。それなのに1日も休まずに会社に来ているってことは、家族に対する責任を何も果たしていないってことだよね。日本人には責任感ってものはないのだろうか?」

「ボスはいつも曖昧な指示ばかりするから、何をすればいいのかよくわからないんだよね。ちゃんと指示しないくせに後になって『できていない』と怒るんだからたまらない」

「うちのボスは、決めなければならないことを全然決めてくれない。何でもかんでも本社にお伺いをたてる。責任者なのだから、少しは判断力と決断力を身につけてほしいね」

いかがでしょうか?

興味深いのは、日本人がタイ人に対して不満を持っている、その同じポイントで、日本人がタイ人に対して感じている不満の裏返しのことを、タイ人は日本人に対して不満に思っているということです。

それではなぜこのように、日本人とタイ人の間で同じポイントでお互いに不満をいだくようになるのでしょうか?

本ブログでは、このような日本人とタイ人の間に起きがちな「すれ違い」について、考えていきたいと思います。